11月9日金曜日。
朝七時に、私は、ターペー通りのレストランでコーヒーを飲み、サンドイッチを食べた。
多くの店は、八時からである。
30分ほど前から、店が開く。
コーヒーなら、開店前でも出してくれる店がある。
そして、八時を待つ。
本日は、日本領事館に行き、総領事と会う予定である。
コンサートの後援を貰うためであるが、まさか、総領事に会うことになるとは、思わなかった。小西さんのお陰である。
ターペー通りが、次第に騒がしくなる。車の数が、見る見る多くなる。
観光客も、出始めた。
レストランが、皆開店する。
また、一日が始まる。
この、ターペー通りの隣の通りが、ロイクロ通りといい、夜の街になるのである。その先には、ナイトバザールが突き当たる。
夜の街になると、雰囲気が一変する。
実に、賑やかである。
ゴーゴーバーという店からは、女の子たちの、奇声が上がる。
道を歩くと、誘いの言葉である。着物を着ていると、大変だ。キャーキャーという声が上がる。私は、夜歩くとき、タイパンツと、Tシャツにした。
ホテルに戻り、野中を起こして、出掛ける準備をする。
野中は、毎晩出歩く。それが、彼の情報になり、書くことの、ヒントを与える。野中は、小説を書く。私は、ルポを書けと勧めている。
命懸けで生きるレディボーイたちの生態である。
レディーボーイといっても、様々である。大きく二つに分けられる。
一つは、完全に女性の体になった場合である。もう一つは、男の体のままに、女装をしている場合。
それぞれが、微妙に違う。
女性と混じり仕事をする者と、レディーボーイのみの仕事場で、仕事をする者。そして、女性として、体を売る者。女性の体ではない者も、女性のように、体を売る者もいる。
実に、色とりどりである。
その生態から、観えてくるものがある。
それについては、野中に任せるとしょう。
トゥクトゥクに乗って、日本領事館に向かう。
ビジネスセンター、ジャパンと言う。通じた。
本当は、乗る前に料金の交渉をするのが、正しい。大半が、ボラれる。だが、私は、着物姿だから、ボレれることはない。確信している。
私を、ボルことは、日本をボルことになるのだ。
着物は、日本を代表する。
入り口で、警備員に止められた。
車は、許可がなければ、入ることが出来ない。
セキュリティが、実に厳しい。
その前で降りて、タオライカップと、値段を聞く。
60バーツである。
ボラれると、300バーツとか、甚だしい場合は、500バーツと言われる。
勿論、そう言われたら、日本語で、怒鳴り散らす。
タイの人は、大声が嫌いである。
特に、私のような、声の大きな者は、嫌われる。
帰りは、50バーツであった。
目出度し目出度しである。
建物の中に入ると、また正面に、警備員が立っている。
ひどく、真面目だ。
敬礼して、迎える。
パスポートを出す。
用紙を取り出して、キムラと、読み上げる。すでに、私の名前が、知らされてある。
右側の扉を示される。
そこでも、また、チェックがある。
今度は、日本人の女性である。
名前と住所を日本語で書く。
そして、一つの扉を開けると、更に、扉がある。
随分と、厳重である。
漸く、総領事の部屋の前まで来ると、暫し待たされる。
別室に通されるが、すぐに、呼ばれた。
そして、総領事の部屋に通された。
横田総領事は、女性である。
バンコクの大使館にいた方である。
チェンマイには、日本企業が多く進出してきて、領事館の必要性大になり、立派な領事館が出来た。
要するに、企業のためが、第一である。
それから、長期滞在の日本人が多くなったためである。
話の内容は、追悼慰霊のことであり、そして、チャリティコンサートのことである。
その他の内容に関しては、省略する。
ただ、あちらは、政府機関であり、公である。
こちらは、民間であり、民間外交、民間活動である。
その違いは、大きい。
あちらは、外務省により、人事配置が行われて、転勤する。それで、終る。
こちらは、終ることも、始めることも、心一つである。
追悼慰霊に関しても、色々と考えていると言う。また、多くの民間の活動を、取りまとめたいとのこと。
兎に角、今回は、顔合わせということで、少しの時間を頂いた。
一人、領事の方も、同席した。
名刺を交換して、これからの活動を話して、お世話になりますと申し上げて、辞退した。
領事の男性の方が、送りに出てくれた。
入り口には、二人の警備員がいた。
私たちに、最敬礼する。
可笑しかった。
本日の予定、終わり。
丁度、昼過ぎである。
戻って、食事であり、いよいよ、明日のコンサートの準備である。
準備は、万端である。
すべての歌の歌詞を覚えた。
野中は、数日前にホールに行き、機材の確認をしている。
ホテルに着いて、すぐに、タイパンツと、Tシャツになる。
着物は、目立ち過ぎる。
ホテル前の、イタリア料理の店に行く。
顔なじみである。
ビザを注文する。
私は、その前に、甘いものが欲しくて、アイスクリームを頼んだ。
矢張り、疲れたのだ。
食事を終えたて、休んだら、マッサージに行こうと思った。
一時間100バーツの安いマッサージ店に行ったのは、夕方四時である。
客は誰もいない。
タイマッサージを頼むと、二階に案内された。広い部屋で、私一人である。
24歳という、女性が担当した。
今、店には、ボスと、二人だけマッサージ嬢がいると言う。
最初は、無言でマッサージをする。
矢張り、下半身は、巧い。足裏から足のマッサージは、良い。
背中になると、弱いのである。
だが、黙って受ける。
これでは、肩の凝りは、取れないと思いつつ。
明日は、フットマッサージをすると言うと、喜んだ。そして、少し話すようになった。片言の英語である。片言の英語の方がよく解るから、不思議だ。
彼女は、マッサージ歴四年であるというから、20歳から、始めたのだ。
店を出ると、夕暮れの空が広がっていた。
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