木村天山旅日記

遥かなる慰霊の旅 平成19年11月1日

第一三話

 

11月9日金曜日。

朝七時に、私は、ターペー通りのレストランでコーヒーを飲み、サンドイッチを食べた。

多くの店は、八時からである。

30分ほど前から、店が開く。

コーヒーなら、開店前でも出してくれる店がある。

そして、八時を待つ。

 

本日は、日本領事館に行き、総領事と会う予定である。

 

コンサートの後援を貰うためであるが、まさか、総領事に会うことになるとは、思わなかった。小西さんのお陰である。

 

ターペー通りが、次第に騒がしくなる。車の数が、見る見る多くなる。

観光客も、出始めた。

レストランが、皆開店する。

また、一日が始まる。

 

この、ターペー通りの隣の通りが、ロイクロ通りといい、夜の街になるのである。その先には、ナイトバザールが突き当たる。

夜の街になると、雰囲気が一変する。

実に、賑やかである。

ゴーゴーバーという店からは、女の子たちの、奇声が上がる。

道を歩くと、誘いの言葉である。着物を着ていると、大変だ。キャーキャーという声が上がる。私は、夜歩くとき、タイパンツと、Tシャツにした。

 

ホテルに戻り、野中を起こして、出掛ける準備をする。

野中は、毎晩出歩く。それが、彼の情報になり、書くことの、ヒントを与える。野中は、小説を書く。私は、ルポを書けと勧めている。

命懸けで生きるレディボーイたちの生態である。

レディーボーイといっても、様々である。大きく二つに分けられる。

一つは、完全に女性の体になった場合である。もう一つは、男の体のままに、女装をしている場合。

 

それぞれが、微妙に違う。

女性と混じり仕事をする者と、レディーボーイのみの仕事場で、仕事をする者。そして、女性として、体を売る者。女性の体ではない者も、女性のように、体を売る者もいる。

実に、色とりどりである。

 

その生態から、観えてくるものがある。

それについては、野中に任せるとしょう。

 

トゥクトゥクに乗って、日本領事館に向かう。

ビジネスセンター、ジャパンと言う。通じた。

本当は、乗る前に料金の交渉をするのが、正しい。大半が、ボラれる。だが、私は、着物姿だから、ボレれることはない。確信している。

私を、ボルことは、日本をボルことになるのだ。

着物は、日本を代表する。

 

入り口で、警備員に止められた。

車は、許可がなければ、入ることが出来ない。

セキュリティが、実に厳しい。

その前で降りて、タオライカップと、値段を聞く。

60バーツである。

ボラれると、300バーツとか、甚だしい場合は、500バーツと言われる。

勿論、そう言われたら、日本語で、怒鳴り散らす。

タイの人は、大声が嫌いである。

特に、私のような、声の大きな者は、嫌われる。

 

帰りは、50バーツであった。

目出度し目出度しである。

 

建物の中に入ると、また正面に、警備員が立っている。

ひどく、真面目だ。

敬礼して、迎える。

パスポートを出す。

用紙を取り出して、キムラと、読み上げる。すでに、私の名前が、知らされてある。

 

右側の扉を示される。

そこでも、また、チェックがある。

今度は、日本人の女性である。

名前と住所を日本語で書く。

そして、一つの扉を開けると、更に、扉がある。

随分と、厳重である。

 

漸く、総領事の部屋の前まで来ると、暫し待たされる。

別室に通されるが、すぐに、呼ばれた。

そして、総領事の部屋に通された。

 

横田総領事は、女性である。

バンコクの大使館にいた方である。

チェンマイには、日本企業が多く進出してきて、領事館の必要性大になり、立派な領事館が出来た。

要するに、企業のためが、第一である。

それから、長期滞在の日本人が多くなったためである。

 

話の内容は、追悼慰霊のことであり、そして、チャリティコンサートのことである。

その他の内容に関しては、省略する。

 

ただ、あちらは、政府機関であり、公である。

こちらは、民間であり、民間外交、民間活動である。

その違いは、大きい。

 

あちらは、外務省により、人事配置が行われて、転勤する。それで、終る。

こちらは、終ることも、始めることも、心一つである。

 

追悼慰霊に関しても、色々と考えていると言う。また、多くの民間の活動を、取りまとめたいとのこと。

兎に角、今回は、顔合わせということで、少しの時間を頂いた。

一人、領事の方も、同席した。

名刺を交換して、これからの活動を話して、お世話になりますと申し上げて、辞退した。

 

領事の男性の方が、送りに出てくれた。

 

入り口には、二人の警備員がいた。

私たちに、最敬礼する。

可笑しかった。

本日の予定、終わり。

丁度、昼過ぎである。

戻って、食事であり、いよいよ、明日のコンサートの準備である。

 

準備は、万端である。

すべての歌の歌詞を覚えた。

野中は、数日前にホールに行き、機材の確認をしている。

 

ホテルに着いて、すぐに、タイパンツと、Tシャツになる。

着物は、目立ち過ぎる。

 

ホテル前の、イタリア料理の店に行く。

顔なじみである。

ビザを注文する。

私は、その前に、甘いものが欲しくて、アイスクリームを頼んだ。

矢張り、疲れたのだ。

 

食事を終えたて、休んだら、マッサージに行こうと思った。

 

一時間100バーツの安いマッサージ店に行ったのは、夕方四時である。

客は誰もいない。

タイマッサージを頼むと、二階に案内された。広い部屋で、私一人である。

24歳という、女性が担当した。

今、店には、ボスと、二人だけマッサージ嬢がいると言う。

 

最初は、無言でマッサージをする。

矢張り、下半身は、巧い。足裏から足のマッサージは、良い。

背中になると、弱いのである。

だが、黙って受ける。

これでは、肩の凝りは、取れないと思いつつ。

 

明日は、フットマッサージをすると言うと、喜んだ。そして、少し話すようになった。片言の英語である。片言の英語の方がよく解るから、不思議だ。

彼女は、マッサージ歴四年であるというから、20歳から、始めたのだ。

 

店を出ると、夕暮れの空が広がっていた。