木村天山旅日記

バリ島へ 平成19年12月

第一話

バリ島は、雨期の時期である。

しかし、雨降らず、兎に角、暑いと聞いていた。

本当に、暑かった。

特に、観光の中心である、クタ、レギャン地区は。暑い。

 

ウブドゥに行き、朝夕の涼しさに、ホッと一息ついた。

 

今回のツアーは、コンサートツアーである。

総勢、六名。

12月3日の、朝の便が、二時間遅れで、12時過ぎに、飛び立った。

前日、成田空港内のホテルに、泊まった。

朝、8:30集合であるから、横浜からだと、朝、早すぎると、前日から、泊まることにした。

 

ソプラノ辻知子、ギタリスト千葉真康、カウンターテナー野村さん夫妻、そして、イダキの野中と、私である。

 

今回の、旅行記は、コンサートと、バリ島の伝統、宗教に関して、少し、詳しく書くことにする。

 

3日の夜に、デンパサール空港に到着し、ホテルに向かう。

そして、翌日は、フリータイムで、ゆったりと、過ごした。

5日の、朝、10時に、ウブドゥに向かう。

 

途中、ゴアガジャという、洞窟、ウブドゥの段々畑を見て回り、ホテルに向かった。

12年前に、ゴアガジャに行った私は、あまりの、観光地化された様に、愕然とした。

すべて、整然と、されて、あの、野ざらしのような雰囲気はなく、少し、寂しい気持ちがした。それに、入館料も取られた。トイレも、有料になり、ガイドによると、また、値上がりするという。

1000ルピア、約、12円が、2000ルピアになるのだ。

 

ホテルに向かう。

コテージになっているホテルである。

一棟、一棟の部屋で、家庭的な雰囲気のホテルであり、皆、大層、気に入った。

 

到着すると、すぐに、テラハウスの共同オーナーである、クミちゃんが、来た。

すでに、バリ島に来ていた、ヒロ君、クミちゃんの叔父さんにあたる、マディさん、そして、クミちゃんの、旦那の弟、車の運転をしてくれる、親戚の叔父さんと、総勢5名である。

 

今夜の、コンサートの打ち合わせをした。

 

テラハウスにて、開催する。

その前に、マディさんの家で夕食を、頂くことになった。

有り難い。

 

観光旅行では、民家で、食事を頂くことなどないから、皆、喜んだ。

私と、野中は、四月にも、マディさんの家で、食事をしている。

 

バリ島では、開演時間が、夜7:30が普通であるということから、私たちも、それに習った。

 

6時に、クミちゃんの家に到着して、家族の皆さんに、挨拶する。

お父さん、お母さん、お兄さんと、お嫁さん、お祖父さん、そして、家のサンガである。

家の敷地の中に、サンガの一角がある。

日本で言えば、神棚や、仏壇の部屋ということになる。

そこで、皆、祈りの挨拶をする。

 

そして、早速、建てている最中の、テラハウスに移動した。

クミちゃんの家の、隣であるから、家を抜けて、すぐである。

 

何と、屋根の骨格が、出来上がって、二階には、屋根の瓦が、積み上げてある。これが出来ると、いよいよ、一階の壁を作ることになる。

進み具合は、遅いが、着々と進んでいる。

作業は、皆、近所の人々である。のんびりと、進んでいる訳である。

 

一階にホールという計画を、変更して、二階を、多目的ホールにすることにして、壁無しの、オープン作りである。

バリ風の、会堂の作り方だ。

一階には、部屋が6つ出来る。それが、ゲストハウスとなる。

 

本日のコンサートは、一階を使用する。

すでに、舞台のような場所が、用意されていた。といっても、後ろに、ビニールシートがかけられて、小さな電球の、縄で、飾られている。

床の周囲には、蝋燭が、置かれていた。

バナナの葉で、包まれた蝋燭である。

夜の闇が、楽しみである。

 

床には、バナナの皮の、ゴザが敷かれて、家の外には、イスが用意されている。

オープンで、周囲は、森であるから、何とも、バリ島風の、舞台である。

 

食事の前に、リハーサルをすることにした。

 

私も含めて、歌い手は、声の響きが、気になった。

ところが、辻知子が、歌い出すと、風が響くのである。

 

声楽家という歌い手は、ホールという閉じられた場所で歌うということが、当たり前になっている。

野外で、歌うということは、考えないだろうし、考えられないのである。しかし、特別に、張り上げることなく、声が響くのである。

 

次の、カウンターテナー野村さんも、然り。

そして、私の声も、然り。

 

つまり、出来ないということを想定していない、故の、効果である。

 

どこでも、歌えるという、藤岡宣男の精神が、そのまま、再現されたのである。

藤岡宣男も、どんな場所でも歌うという、域であった。

 

何度も言うが、張り上げない歌い方である。

静かに、語りかけて歌っても、発声により、響くのである。

 

何故、小鳥の鳴き声が、響くのかということを、考えると、よく解る。

 

発声の、技巧が、どうのこうのと言う者は、まず、無理である。

歌の心を伝えたいと、思う者には、オープンであるということが、マイナスにならないのである。要するに、それを、プロと言う。

 

今回の、伴奏は、ギターである。

千葉の、ギターも、響いた。

 

アカペラ半分、伴奏半分であり、ギターソロもある。

 

リハーサルを終えて、客によって、響きが、吸われることもないのであると、思うと、このコンサートは、大きな、チャンスと、確信であった。

新しい、コンサートの形である。

 

そして、何より、虫の音と、鳥の声と、歌の共演である。

蛙の鳴き声も、鶏の鳴き声もある。

自然のオーケストラの中での、歌となる。

 

自然の贅沢なホールで、歌うのである。

 

リハーサルをしていると、自然に人が集ってくるというのも、面白い。

子供たちも、やってきて、見ている。

本番では、子供たちが、噂を流したのか、大勢やってきた。

 

長期滞在の日本人にも、情報が流れて、来てくれたのが、嬉しかった。

 

リハーサルを終えて、マディさんの家に行く。

その頃から、お客が、集い始めた。

何とも、適当な雰囲気がいい。

 

待つことが、苦痛ではない、自然が在る。

いつ、始めても、いいような雰囲気でもある。

 

厳密さを求める日本人の、良さも、いいが、適当な曖昧さも良い。

コンサートを楽しむということは、そこに、来ること、去ることも、楽しむことなのである。

 

実は、その秘密は、バリ島の伝統、宗教性にもある。

厳密ではない。

何となくという、曖昧さの中に在る、日本語にすると、たゆたう、心である。

これが、私の古神道と、バリ島の宗教感覚の、共通性を思わせた。