木村天山旅日記

タイ・ラオスへ 平成20年2月

第五話

街角で、子供が、とうぎひの茹でたのを、売っていた。

値段を訊く。

小学生くらいの、男の子である。

トェンティと、指折り数えた。

 

私は、小銭を、差し出すと、10バーツ硬貨を、一つ取った。

テンだったのだが、まだ、英語の数が、よく解らないのだろう。

 

その、とうきびと、少し歩くと、焼き芋が、売っていた。

日本の、サツマイモと同じである。

一つの、値段を訊いた。

タイ語である。よく解らない。小銭を出すと、7バーツを取った。

 

それを、部屋で食べた。

旨い。

とうきびは、子供の頃に食べたものと、同じ、味だった。そして、焼き芋は、中が、黄色で、旨い。

 

タイだから、安心して、お金を見せることが、出来る。

財布の中味を見せることは、海外では、危険である。

しかし、私は、大半、こうして買い物をした。

 

皆、一々説明して、お金を取り出した。

小銭は、10バーツ、5バーツ、1バーツである。それを、私に確認させて、取るのである。

 

お札は、20バーツ、50バーツ、100バーツ、500バーツ、1000バーツである。

 

お札を、使うと、小銭が貯まるので、小銭も、使うようにする。

一番安い水は、ペットボトル6本で、20バーツである。

食堂の水は、大半が、10バーツである。

 

現地で、ろ過して作る水は、500ミリリットルで、6バーツである。

約、20円。

 

土曜の夜、私は、トゥクトゥクの運転手に、ナイトバーを紹介してくれと、乗り込んだ。

夜の街である。

ゲストハウスの、周辺も、夜になると、小さな電球が点滅して、それらしくなるが、ノーン・カーイの飲み屋街に、出てみたくなった。

 

普通では、面白くないので、レディボーイバー、ゲイバーと、言うと、驚いた。

しかし、二軒並びの、ゲイバーに、連れて行かれた。

ところが、ゲイは、一人もいない。

 

ビールを頼んで、少年たちと、話をした。

彼らは、体を売る、普通の少年たちである。

20歳から、27歳程度の、幅である。

 

だが、20歳の子は、17歳と、私に言う。後で来た子が、嘘をばらした。ただ、悪気ではない。彼らは、英語も通じないので、私の質問に、ちんぷんかんに、応える。

 

その、飲み屋街は、何と、三軒のみで、後は、二つのゲイバーの前に、レディバーがあるだけである。

 

私は、一時間ほどいた。

帰りの車を、どうするかと、考えていると、一人の男の子が、やって来た。

ボーイである。

一番、しっかりとした顔付きをしていた。

 

そのバイクで、ここまで、行ってくれるかと、ゲストハウスの、名刺を見せた。

すぐに、オッケーと、言う。

 

彼らが、付き合うのは、多く、欧米人である。一晩、最低、1500バーツのようである。

だが、ゲイは、一人もしないという。金を得るためだけに、体を売るのである。

 

バイクの後ろに乗ると、彼から話しかけてきた。

明日の予定を、訊く。

私は、リラックスタイムで、ゲストハウスで、休んでいると言った。

彼は、バイクで、町案内をしたかったようである。

ガイドで、金を得ようとしていた。

 

私は、もう、市内見学は、嫌なので、その話には、乗らなかった。

 

ゲストハウスに着いて、私は、100バーツを彼に渡した。

喜んだ。

二度と会わない相手であろう。

 

ビールを飲んで酔うのであるから、矢張り、異国である。一本飲むのに、やっとである。

しかし、日本酒を飲みたいとは、思わない。不思議だ。

矢張り、酒は、雰囲気で、飲んでいるのだろう。

 

ただ、ゲストハウスでは、私の話題が上っていたようだ。

トゥクトゥクの、運転手が、ゲストハウスのオーナーの知り合いで、私を、ゲイバーに連れたと行ったのだ。

そこで、私が、ゲイボーイを、連れてくると、思ったらしい。

勿論、部屋に、連れて帰っても、問題はない。

オーナーが、私が庭に入ると、何か言った。

よく解らない英語である。

すると、横から、英語の堪能な、お手伝いの、青年が出てきて、私が、男の子を、テイクアウトしたのかと、尋ねる。

ノーノーノーと、私が言う。

危ないことを、して欲しくないという、思いなのだろうと、思った。

 

最初の夜、私の隣の部屋で、欧米人の男が、女を連れて帰り、激しい行為を始めた。それは、朝方まで、続いた。

一度、目覚めて、朝、目覚めると、まだ、続いていたから、驚いた。

 

そういうことが、普通なのだろうが、まさか、ゲイボーイを連れ込むとは、考えていなかったようである。

 

私は、オーナーと、青年に、グッナイトと言って、部屋に上がった。

シャワーを浴びてすぐに寝た。

 

夜風は、冷たいが、私は、少し窓を開けて寝た。

野中がいたら、完全に閉めるたろうが、私は、どうしても、少し空けておきたいのだ。

 

翌朝、激しい、鳥の鳴き声で、目を覚ました。

 

すぐに歌が出た。

 

朝に鳴く 目覚めの一声 あざやかに 異国の鳥の その強烈さ

 

名も知らぬ うぐいすに似た 異国鳥 大和心を かきたてられし

 

私は、そのまま、浴衣を羽織り、階下に降りた。その鳥を、見たかった。しかし、鳥の姿は、見えない。

 

そのまま、ゲストハウスに置き付けの、インスタントコーヒーを飲んだ。

暫く、そうして、朝の気配を感じて、楽しんだ。

 

鳴く鳥も 涼しげにあり タイランド 吹く風薫 メコンの流れ

 

大陸は 国の境に 妙ありて 微妙な意識 聞けば驚く

 

その日の朝は、歌遊びをした。

 

国離れ 国見る目が さわやかに 国を思うて 何が悪い

 

川一つ 挟んで国境 作る人 その賢明さ 見事なりけり

 

旅人の 我は読むこと することなく ただ見つつと 見尽くすなりて

 

あまりにも 悲惨なるやと 語る人 それ聞く我は ラオスに入らず

 

ただ今は、日本にて、引きこもりが、多いと聞く。

家の中に、籠もっている。しかし、それとは別に、外こもりという、現象があるという。

つまり、一定期間働いて、そのお金で、タイに長期滞在するというものだ。

 

榊原夫妻も、そういう話をしていた。

ただ、その人たちが、年を取った時、どうするのだろうという。

若い時は、いいが、年老いてゆく。その時、彼らは、どうして、老後を過ごすことができるのかと。

 

非常に、難しい問題である。

 

日本に無いものを、求めて、タイに逗留する。

物価も安い。しかし、いつまでも、そうしては、いられないのではないのか。

 

次第に、タイも、物価が高くなっている。

榊原さんの知り合いも、タイに、家を持っているが、売りたくても、高くなって、売れないという。

持ったのは、いいが、手放して、日本に戻りたいと思っても、うまくいかないのだ。

 

そんなことを、考えていると、川柳が出て来た。

 

ひきこもる 男も異国で 女買う

 

更に、歌一首

 

ひきこもり 今外こもり タイランド 日本の男の 逃避行なり