バンコク行きの、直行便は、日本時間で、深夜1時、タイでは、11時に到着する。
飛行機は、ほぼ満席である。
皆が乗り込むと、即座に動き出す。
時間通りではない。が、離陸するのに、30分以上も待った。
着陸、離陸の飛行機の、順番待ちである。
そのうちに、私は、眠ってしまった。
気づいた時は、食事の時間である。
バンコク、スワナプーム空港では、翌朝、六時発の、チェンマイ行きに乗る。
であるから、バンコク市内には、出ないで、空港で、過ごす。
これが疲れる。
そこで、今回は、三階にある、モスリムの、祈りの部屋を利用することにした。
イスラム教徒のために、用意された、部屋である。
彼らは、どこでも祈りを上げるので、空港内に、作られたのであろう。
スタッフと、二人で入ると、すでに、三名の人が寝ていた。
皆、壁に着くように寝ている。
私たちも、壁に沿って、体を横たえた。
夜中、空港で、過ごす旅行客は、多い。
皆、ベンチで寝たり、空いている床に、敷物を敷いて寝る人もいる。
この空港の、椅子は、皆同じで、実に冷たい。
そこに、そのまま寝ることは、出来ないほど、冷たい。
そして、寒いくらいの冷房である。眠られるはずがない。
モスリムの部屋は、涼しいが、寒くは無い。ただ、照明が煌々と照る。
イスラム教徒の場所であるから、他の宗教の人は、入らない。
何故、私が入ったかといえば、眠るためである。
イスラム教は、偶像を嫌い、演台が一つあるだけで、後は、何も置かない。
そこに、入る人は、イスラム教徒である。
皆、イスラム教徒であるから、事件は起きない。安全である。
眠るのに、相応しいのである。
もし、万が一、何か問われたら、日本語で、コーランの一説を朗詠しようと、思っていた。
日本流のコーランの唱え方だと言うつもりだった。
だが、誰も問うことなく、搭乗手続きまで、ゆっくりとしていた。時々、トイレに立った。
印象深かったことは、朝、四時まえに、パイロットがやってきて、30分ほど、祈っていたことである。
機長である。
これから飛び立つ、飛行機の、空の安全を祈ったのであろうことが、解った。
そして、パイロットが出ると、寝ていた一人の男が、ぶつぶつと、話し始めたことである。いや、話ではない。祈りの言葉である。
それを、聞いて、時間を見ると、そろそろ搭乗手続きの時間である。
男の部屋の隣が、女の部屋で、子供もいた。
中は見えないが、子供が出入りしていた。
大層な荷物を持って、部屋を出る。
皆、小さな荷物であり、私たちだけ、支援の衣服があるので、大量な荷物だった。
帰りも、私は、この部屋で過ごした。
スタッフの野中は、一階の椅子に、敷物を敷いて寝たようである。
何故か、入らないと言うのである。
言わないが、理由は解る。
想念の重さである。
祈るという、人の想念が重いのである。
そこに、残り漂う。
日本の伝統的、宗教的行為は、清め祓いが、最も大切である。
故に、兎に角、清め祓う。
しかし、他の宗教は、清めも祓いも無い。
ただ、祈りを捧げる。
良い悪いの、話ではない。
伝統と、伝承が違うのである。
神に向かって祈るのであるが、それが、その場に留まるのである。
通常の感覚で、考えれば、質も次元も違うところの、神に、通ずることはないのである。
通じるとは、同じ質と、同じ次元でなければならない。
以下省略する。
チェンマイ行きの飛行機は、空いていた。
これは、幸いである。体を、横にして、寝られる。
それに、時間通りではない。
全員乗った。じゃあ、離陸である。
これが、いい。
適当である。
飛行機の中は、冷房が効いて、寒い。
私は、バンコクの空港で、夏物の、紗の着物に着替えていたので、寒いのである。
体を横にしたが、寒くて、寝られない。しかたなく、目を閉じていただけ。
国内線は、サービスは無い。ただ、飲み物や、何やかにやを売りに来る。
その会社特性の、何とかという物を売っていた。
その説明が、長くて、うんざりした。
一時間程の、飛行時間で、チェンマイである。
タクシーは、120バーツで、皆同じ値段で、決まっている。
一台のタクシー運転手が、声を掛けるので、その人に決めた。
ターペー門の前のホテルの名を言うと、運転手は、今、工事中なので、別な良いホテルがあるという。
800バーツだというので、そこに決めた。
本当は、400バーツ程度の、ゲストハウスで、いいのだが、今は、これからのことを、考えて、少し高級なホテルにすることにした。
チェンマイ市内では、中級であるが。
新しいホテルで、実際の値段は、2700バーツもするホテルである。
目立たない場所で、人が入らないから、安くしているのだろうか。
フロントで、朝食付きで、850バーツと言われた。
それで、決めた。
いつもの、ターペー門から、離れて、ナイトバザールのある、場所に近い。
付近には、古くからの、日本料理屋もある。
朝、八時過ぎに着いても、チェックイン出来るのが、いい。
日本では、そんなホテルは無い。
ついでに、朝食を食べた。
150バーツで、バイキングである。
色々あって、楽しい。つまり、ホテル代は、朝食を抜くと、600バーツなのである。
円高、バーツ安で、いつもより、一万円で、200バーツ、約650円程多い。
スワナプーム空港では、一万円が、3600バーツ程度だった。
三万円両替したので、ホテル代が出たことになる。
朝食を食べて、少し寝た。
スタッフの野中は、眠いのか、食事もしないで、昼頃まで寝ていた。
翌日、国境の町メーサイまで、バスで行くことにしていた。約、六時間である。
一番良いバスで、行く。それでも、一人約300バーツである。
だが、六時間という長い時間のバスは、少し恐怖だった。
バス乗り場から、順次出ているとのことで、時間を調べなかった。
ホテルからは、十時に出る計画である。
乗り物に乗ると、足が浮腫む。
野中と、フットマッサージに出掛けた。
ところが、歩いていると、野中の携帯電話に、どんどんと電話がくる。
沢山、友人を作ったので、色々な人からの、電話である。
その一人、特に親友になった、レディボーイの、タニャさんが勤めたという、マッサージ店に行くことにした。
タニャさんの家では、以前、家の御祓いに行き、私も食事をご馳走になった。
ロイクロ通りという、夜の街である。
その通りは、夜になると、とても賑やかになるのである。
橋を渡り、タニャさんの勤める店に行った。
そこで、マッサージを受けることにした。
タニャさんの他に、別の友人も勤めていた。
それでは、二人に、やってもらおうと思ったが、もう一人のレディボーイが、私をマッサージするのが、恥ずかしいとのこと。
実は、私は、レディボーイに、嫌われている、いや、煙たがられるようである。
つまり、野中が、言うには、レディボーイであることを、見抜かれるからだ、というのだ。
それでは、他の女性に受けるかとも、思ったが、別の場所にすることにした。
野中は、タニヤさんに、やってもらうことになった。
ナイトバザールの付近は、マッサージ店が、数多くある。
激戦区である。
私は、元の道を戻り、ぶらぶらと、歩いた。
歩道に、店が出始めて、それを眺めて歩いた。
そうしていると、段々と疲れて、マッサージもしたくなくなり、そのまま、ホテルに戻った。
何度も、マッサージの店の前で、誘われたが、今ひとつ、乗り切れなかった。そういう時は、やめた方がいいのである。
ホテルの部屋で、休むことにした。
野中が、戻って来たので、ホテルの前にある、日本食の居酒屋に、行った。
経営者も、日本人で、わざわざ挨拶に来た。
前回も、一度来ている。
日本酒を、お銚子で頼み、一本を二人で飲んだ。それだけで、酔いが回った。疲れているのである。
言いたくないが、年のせいであろうか。
いや、年ではない。乗り物である。乗り物のせいで、酔いが回るのである。
|
|