天山旅日記
ベトムへ
平成20
10月
 

第17話

私は、王様のいる国、タイが好きである。

無形の権威というものが、社会には必要である。

現国王は、国民の期待に、若い時から、応えてきた。

 

自らも、出家し、そして、王位を守り、政治的には、中立を保つ。

しかし、ここ一番という時、国民は、王の指示を仰いだ。

 

現在も、政府側、反政府側も、国王支持である。

国民の、90パーセント以上が、国王支持である。

その、支持率を、保ち続けてきたということは、並大抵ではない。

 

クーデターの度に、国王の信任を得るということが、前提になった。

世界広しといえども、そのような、国王は、どこにもいない。

 

宗教界、仏教の主は、主として、政治は、国民にという、国王の意志と、人柄が、そのようにさせるのであろう。

 

世界の識者は、政治は、国民の手で、修めるべきであり、国王を、持ち出すことのないようにと、言うが、それぞれの、民主化という形があってよい。

国王、絶対君主という、時代ではない。

 

アメリカが、イラクにアメリカ型の、民主化を、求めても、成る訳が無い。

その土地、民族性によるものである。

 

天皇が、祈りの象徴であるように、タイの国王も、祈りの象徴として、ありたいと、願っていることだろう。

国民は、誰もが、私を省みなくても、国王は、私のために、祈っておられる。

これこそ、国家幻想の、大元である。

 

無形の権威である。

 

しかし、現実問題、選挙によって、選ばれた政治家が、政治を行うべきである。

そして、選挙によって、政治を、修めるべきである。

 

いつも、軍が、クーデターを起こして、国王の信任を得て、暫定政権を作り、そして、選挙し、政府を立ち上げというのは、お終いにした方がよい。

 

タクシンの場合は、王制を廃止し、大統領制を示唆したことも、大きな反感を、国民から買ったのである。

やったことも、悪だが、言動も、悪乗りである。

 

また、問題は、タクシン政権寄りの、政党が存続し、選挙で、勝っていることである。何故か。そこに、何か、意味がある。利権であろうと、思う。

タクシンは、相当に金持ちであるが、実は、タイ国民は、知っている。

 

タイ国王は、世界で、一番の金持ちである。

正確な数字は、忘れたが、兎に角、世界一金持ちの、国王である。

中華系タクシンごときに、タイという国を、則られてたまるか、というところだろう。

 

さて、この問題は、そろそろ、省略して、旅の続きを書く。

 

小西さんと、別れて、私たちは、一度ホテルに戻り、休んだ。

少し、疲れを感じた。

明日、ベトナムを経由して、帰国するのである。

 

10日間の旅も終わる。

そして、更に、ベトナムでの、五時間あまりに、追悼慰霊の儀を行うと、決めた。

 

食事である。

何を食べるか。

私は、屋台連合の、スープライスしか、思い浮かばない。

 

40バーツ、約130円である。

エビと、イカの入った、シーフードを食べる。

 

スタッフの野中は、レディボーイに逢うというので、別々に行動することにした。

しかし、私は、屋台連合に行くことを言った。

野中が、先に部屋を出た。

30分ほどして、私も、部屋を出た。

 

もう、顔馴染みになった、おじさんに、シーフードのスープライスと、言う。

夜の屋台は、混雑している。

地元の人が多いが、欧米人もいる。

一つだけ空いていた、道沿いの椅子に座る。

 

息子なのだろうか、男の子が、運んできた。

食べ始めると、男の子は、お椀に、何かを持ってきた。

私の食べている、どんぶりに、それを、入れようとするので、制して、その、お椀の中に入っているものの、匂いを嗅いだ。

酢である。

スープライスには、酢を、入れると、はじめて知る。

 

私は、それを、受け取って、少し入れて食べてみた。

悪くないので、もう少し、足した。

長い間に、出来た食べ物には、良い食べ方がある。

更に、生野菜が出ることもある。

こうして、バランスの良い食事を、思いついてきたのである。

 

衣食住には、民族の心が、宿る。

 

食べ終わって、さて、どうしようかと、思った。

最後の夜であるから、少し、歩道に並んだ、夜店を見ることにした。

あるならば、ロウソクを買おうと思った。

 

亡きカウンターテナーの、藤岡宣男に、燈すロウソクである。

ほとんど、バリ島やタイで、ロウソクや、線香、お香を買う。

 

歩いていると、スタッフの野中に逢う。

今、レディボーイと、別れてきたという。

それで、一緒に、ロウソクを探した。

10個で、100バーツの、ロウソクを見つけて買った。

それで、夜の歩きは、終わりである。

 

野中は、レディボーイの子と、食事をしたというので、ホテルに戻ることにした。

 

その、レディボーイの子は、23歳で、両親が無くなり、祖母と暮らす。

女の体になるために、女装して、体を売る。

前回来た時、野中が、声を掛けて、知り合ったのだ。

 

ショートは、1000バーツ。平均は、2000バーツである。

野中は、前日に、2000バーツを渡している。

話を聞かせて貰い、そのお礼である。

約、6600円であり、高額である。

 

彼、いや、彼女は、日本円にして、25万円を目指している。

最低の手術費である。

 

見た目は、女性である。

美しく、可愛い。

 

ただ、生活費に、一ヶ月、最低でも、日本円で、15000円必要である。

バスで、二時間ほどもかかる、スクンビットに出て来る。

朝、九時頃から、夜の六時頃まで、道端に立つ。

夜に渡っては、仕事は、しないという。

毎日、お客がいる訳ではない。

早く女の体に、ならなければならないので、この仕事で、稼ぐしかないのである。

 

その辺一帯は、女も、レディボーイも、立つ激戦区である。

だが、皆、仲間であり、仲良しである。

 

以前来た時より、人数が増えていた。

女が多い。肌の色の違う女もいる。

そして、驚くことは、白人もいるのである。ハーフなのであろうか。

 

彼女たちは、実に親切である。

その訳は、普通に接してくれる人だからである。

体を売る人ではない、普通の人として、付き合う、話し掛けるからである。

私は、よく、道を尋ねる。一緒に、着いて来てくれることもある。

 

部屋に戻ると、野中は、彼女のことを、心配していた。

唇に、明らかに、ヘルペスが出来ている。そして、口が臭うという。

絶対コンドームを使うことだと、言ったという。

そして、約束させたと言う。

 

実は、コンドームや、ラブオイルも、準備して差し上げることもある。

バリ島にも、それらを持って行った。

 

チェンマイでは、白人のおばさんが、ボランティアで、売春を仕事にする女、男、レディボーイに、コンドームと、ラブオイルを配っている。

ラブオイルは、傷がつかないように、である。

傷口から、菌が入るからである。

 

先の、レディボーイの、Kは、まだ仕事を始めたばかりで、その時、コンドームを使っていなかった。そこで、野中が、コンドームを渡した。

そのせいか、日本に帰国しから、野中に毎日、電話が来るようになった。

お金を出して欲しいというものだった。

 

女になって、あなたと、云々という、電話である。

私たちは、それに対して、はっきりと、させるべきだと、お金は無い、ただ、出来ることは、病気にならないように、必要な物を、渡すことしか、出来ないと、言った。

 

日本人は、お金を、持っているとの、いつもの先入観である。

だが、彼女、Kも、私たちが、安いホテルに泊まり、屋台で、食事をするのを、見て、了解したはずである。

 

なんてったって、私のタイでの、恰好は、タイ人が、寝る時の恰好をしているとのこと。

そんなことは、露知らず、タイパンツと、ティーャツで、闊歩しているのである。

 

知らないことは、恐ろしいことである。

 

マッサージをする時、私のはいている、タイパンツより、上等なパンツを出されて、唖然とすること、あり。

向こうも、変な日本人と、思っていることだろうと、思う。

 

私の場合は、丸裸が、一番、上等に見えるかもしれない・・・