木村天山旅日記

  モンテンルパ

  平成21年9月 

 

第5話

モンテンルパから戻り、ホテルに着いたのは、本当の出発の、11時前である。

 

運転手にお金も渡し、部屋で、ホッとしていると、ドアがノックされた。

ガイドの、女性である。

男も、一緒である。

 

あれっ

今、モンテンルパから戻ったんだよ

えっ、どういうこと。出発は、11時でしょう

 

私は、運転手から、貰った、電話番号を出して、この人が、行ってくれたよと、言った。

女性は、知らないと言う。

 

今度は、私が、どういうこと、と、言った。どうして、あの人は、今日の予定を知っているの

私、言ってない

 

しかし

あの時、誰かが、この話を聞いていたよねと、連れの男に女が言う。

 

男が、私が、差し出した、電話番号に、電話する。

そして、しばらく、話し合いが、続いた。

 

女性は、涙を流した。

 

どうして・・・

 

私は、再度、どうして、あの人は、この予定を知っていたのかと、女に、問うた。

しかし、女は、解らないと言う。

 

要するに、私を連れた男は、仕事を横取りしたのである。

 

私は、二人に、言った。

このことは、私と、関係ないことだ。あなたたちで、処理して欲しいと。

 

女は、頷いた。

そして、悄然として、部屋を出て行った。

私は、女に、もう、今日は、これでいいから、一緒に過ごさなくていいと、言った。

 

彼女に、損は無い。

お金は、払っている。

セックス無しの、とても、良い条件の仕事だった。

更に、彼女は、自分と、同じ店で働く女たちの、子供の衣服を、優先して、私の支援物資から、頂くことが、できたのである。

 

あの、運転手は、言った。

あの店は、三流の女たちが、いる。皆、子持ちの女だ。

そして、女の取り分は、三割だと、言った。つまり、私が、払った、2000ペソの、三割、600ペソ、1200円が、取り分なのだ。

 

その次の、二流は、3000ペソ、その上が、4000,5000ペソとなる。

上になると、若くて、美しい女たちである。

 

それでも、取り分は、三割である。

 

フィリピンは、売春禁止である。しかし、それを、厳格に規制すると、多くの人は、路頭に迷う。ゆえに、合法的処置が、取られている。

 

実際、日本人をはじめ、韓国、中国人が、女を買うために、マニラに来るのである。

 

女は、部屋を出る時、寂しそうに、私に、手を振った。

私も、これで、彼女との、関係は、終わりである。

 

運転手の男は、折角買ったんだから、セックスしなよと、言った。

 

だが、私に、それだけの、気力は無い。

慰霊と、支援で、どれほど、疲労するか。

 

疲れマラという言葉がある。

疲れると、ペニスが、立つというものである。

確かに、疲れマラという、状態は、あるが、実際に、単独で、慰霊と、支援のことをする身には、疲れマラどころではない、疲れがある。

 

マニラで、支援活動をするということは、地獄に、身を入れるということと、同じである。

 

兎に角、私は、それで、彼女との関係を、終わった。

そして、それで、良かった。

 

私に必要なのは、女ではなく、男の協力者である。

支援物資を運ぶのも、力である。

 

実は、トンド地区に、支援に出掛けた時、彼女が、ガイド役をしたが、役立たずであった。

タクシー運転手が、見かねて、助けてくれたほどである。

これは、後で、書くことにする。

 

あなたは、いい人と、女は、言った。

確かに、セックスをせず、彼女は、実に、楽に、二日分の、売り上げを得たのである。

勿論、それでも、足りない。

そこで、お客に、たかる。

日本人なら、たかると、まあまあと、金を出すのである。

 

さて、こうして、モンテンルパの追悼慰霊の儀は、終わった。

 

最後に、ホテルの、ドアマンである、おじさんが、私に、タクシー代金は、幾らだったと、尋ねた。

2500ペソと言うと、頷いた。

 

私は、オッケーかと、聞いた。

おじさんは、オッケーと、言った。

つまり、ボラれた訳ではなかった。

 

ホテルの従業員は、私の行動、活動を理解していた。

 

とても、親切に、そして、心配してくれていたのである。

 

レイテ島に出掛ける時も、間違いないタクシーを捕まえて、国内線の、セブ航空だと、伝えてくれた。

要するに、人の心の通う付き合いなのだ。