マニラの悲劇・衣服支援 第1話
三流売春婦のお店の、女性をガイドに頼んだことは、書いた。
モンテンルパに行く前の日に、衣服支援を行う。
部屋に来てもらい、支援物資を見せて、今回出掛ける、トンド地区の状態を聞いた。
そして、彼女に、してもらいたいことを、言った。
まず、男女別に、分かれてもらうこと。
つまり、人を整理して欲しい。差し上げた人は、外にはずして欲しい。
そして、写真を撮ることである。
トンド地区とは、マニラのスラム街であり、泣く子も黙るといわれる、危険な場所である。
誰もが、危険だという。
三つの、支援物資のバッグを持って、タクシーに乗った。
そのタクシーを捉まえてくれたのは、ポン引きの、おじさんである。
私は、ポン引きの、おじさんたちと、親しい。
アホな、ポン引きの、おじさんは、私に、女を買えと、煩いが、賢いおじさんは、決してそんなことは、いわない。
ポン引きの、親分肌のおじさんが、日本語ぺらぺらで、私に、自分のことを、ポン引きですと、紹介した。
そして、トンドに行くなら、男を連れた方が、良かったと言った。
すると、他の、ポン引きたちも、そうだそうだ、俺が一緒に行ってやるのにと、言った。
兎に角、物は取られる。女は、連れ去られると、言う。
しかし、私は、もう、彼女、ニーナとしておくが、ニーナを頼んだのだから、行くしかない。
タクシーに乗り込んで、彼女が、行き先を言う。
そして、運転手と、何やら、話し込んでいる。
これから、行うことを、伝えているようだった。
大きな、橋を抜けると、トンド地区に入る。
そこは、前回、私たちが、慰霊をした、スペイン統治時代の、イントラムロスのサンチャゴ要塞から、川向に見えたスラムであった。
次は、あの地区へ行こうと、決めたのだ。
トンド地区の入り口の、公園の横に、タクシーが止まった。
公園では、老若男女が、たむろしていた。
ニーナは、大き目の、一つのバッグだけを、持つようにと、私に言う。
時々、彼女が、命令口調になるのは、自分で、日本語を覚えたからであろう。
カメラを持って、彼女が、公園にいる人々に、声を掛けた。
すると、一斉に、人が集う。
前列に、子供たちに、並んで貰った。
そこまでである、秩序が保たれたのは。
子供に合わせて、一つ一つ、手渡していると、大人、老人たちが、我慢できなくなったのであろう。
取り出すものを、奪いはじめた。
次々に、奪うのである。
そして、更に、人が集ってきた。
どんどん、収集がつかなくなる。
渡すと、それを、奪い合う。
私は、ノーノーと、言った。
ニーナも、叫んだ。
ついに、タクシーの運転手も、出て来て、加勢するが、混乱は、収まらない。
その時の、写真を見ると、何を写しているのか、よく解らない写真である。
ニーナも焦ったのである。
そして、ニーナが、突然、もう行くと、私に言うと、バッグの口を閉めて、持ち出した。私に、車に乗れと言う。
追いかけてくる人々を、押しのけて、車に乗ると、ロックしろと言う。
どちらが、雇い主だか、分からない。
タクシーは、ドアをロックして、すぐさま走り出した。
ニーナが、私の友達のいる、ところに行くと、言う。
そこなら、大丈夫と、言う。
私は、呆然としていた。
今までも、人々が多く集ったが、あれほどまでに、混乱したことは、無い。
後ろで、子供が、転んで泣いていたのを、見た時、駄目だと、思った。
奪い合うという、心が、あの地区を支配しているとしたら、救われない。
皆で、分かち合うことが、貧しい場所の、最低の、ルールである。
ニーナは、お金をくれという人もいたと言って、憤慨していた。
少し行くと、ニーナの友人のいる、家の前に着いた。
ニーナが、一寸待てと、私に言う。
口調が、逆転している。
ニーナが、友人と、何やら話しているのを、見ていた。友人は、頷いて、ニーナの話を聞いている。
ようやく、ニーナが戻って来た。
そして、すべての、バッグを持ち出した。
そこは、少しの秩序があった。
皆、控え目に、私の取り出す物を、待った。
しかし、次第に、人が溢れてくると、バッグから、取り出す人も出始めた。
その時、誰かが、声を出した。
そして、秩序が、保たれた。
男たちも、私が、取り出すまで待ち、控え目に、受け取る。
運転手も、手伝っていたから、驚いた。
だが、最後に、子供用の、靴の袋を取り出して、それを、全部出した時、突然、奪い合いが、始まった。
ニーナが、私に、これで終わりと、言う。
運転手が、残りのバッグを、車に積む。
ニーナの友人という、女性も、少し、呆然としていた。
車に乗り込むと、人々が、私に手を振る。
ニーナの友人は、私に頭を下げた。
ニーナは、運転手と、何やら話す。
そして、私に、これで、戻ると、言う。
まだ、物資は、半分残っていた。
ホテルに、到着して、タクシー料金を、聞いて貰った。
300ペソと言う。
安い。
ニーナが、それでいいって、と、言う。
バイクタクシーに、私がトンド地区に、衣服支援をしたいが、幾らかと、尋ねたとき、何と、5000ペソと言われた。そして、タクシーなら、7000,8000ペソにもなると、言われていたのだ。
メータタクシーだと、2000ペソ程度かと、思いきや、300ペソだと言うので、感激した。
誰もが、ボル訳ではないのだ。
運転手は、私の行為の、主旨を理解したのだ。
ホテルのドアマンのおじさんが、残った物資を見て、ニーナに話し掛けている。
何を言ったのと、尋ねると、どうして持って来たと、聞くから、皆、喧嘩するから、止めたと答えたと言う。
部屋に戻り、しばし、二人でベッドに、横になった。
ベッドは、大きく、両端に分かれて寝たのである。
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